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I'm not a very good communicator, so maybe that's why I write about talking

『「個性」はこの世界に本当に必要なものなのか』

ええ、わかってましたよ。「個性は本当に必要なものなのか?」みたいな問いかけをしたからといって、結論がまず「必要ない」とはならないことなんて。でも、「社会的に価値ある個性を発揮しよう」、したがって「個性は必要なものだといわざるをえない」というのは、さすがにズッコケる。

どういう本かというと、博報堂の人が企画して、「個性」について東大のいろんな専門分野の先生にエッセイを書いてもらい、最後にまた博報堂の人が締める、という本で、東大の先生たちのエッセイは、まあ特に変わったことは言ってないけど、自然科学の人たちが生物の種とか惑星とかをアナロジーにして個性を語るのが面白かった。でも、最後の博報堂の人が、博報堂ブランドデザイン(共通性(社会規範)と固有性(その人らしさ)のバランスが大切、というものらしい)とやらに回収する形で議論をまとめちゃってて、もちろん博報堂ブランドデザイン自体はそれはそれでいいのだけど、そういう既存の枠組みに回収してしまうなら、もう予定調和というか、「個性は本当に必要か?」とか問いかけずに、初めからそう言っておけばいいわけで。こういう、冒頭でわざわざラディカルな問いかけをしておいて、結論で至極ふつうのことを再確認する、という立論を時々目にするが、なんか損しかしてないように思うのだが。

佐藤俊樹が、平均からのずれ値としての個性は、金や労力をかけないと見えないし取り扱えない、アメリカで個性的な人材が育つのは、大学への寄付制度(多額の寄付をした人の子供ほど優先的に入学できる)みたいな制度のもと資金力にものをいわせているからだ、みたいなわりと身も蓋もないことを言ってて、そこがこの本で一番よかった(博報堂の人にはスルーされちゃったが)。