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I'm not a very good communicator, so maybe that's why I write about talking

『組織文化のマネジメント 行為の共有と文化』、とてもよい本です。

科研のテーマが組織文化に関するものであるし、また、経営組織論の教科書を執筆する話があって、組織文化についてのチャプターを担当することになっているし、ということで現在、組織文化論についていろいろ文献を探し読み直している。で、組織文化論というのは流行になっただけあってそれはまあ玉石混交で、正直ちょっとうんざりし始めてきているのだけれど、そんな中、この本はとてもよかった。

内容としては、「文化 → 行動」をストレートに論じちゃう伝統的組織文化論ではどうも単純すぎて、組織における文化的現象のオイシイところを取り逃がしているのではないか、ということで、一般に「文化」と呼ばれるところの信念・規範・ルールとか人工物(モノとか人々の具体的な行為のパターンとか)の間の複雑な関係を見よう、そのために「(1)観念としての文化 /(2)表面的・具体的なものとしての文化」という二項対立図式を導入しよう*1、そしてそれを踏まえて組織文化のマネジメントを考えよう、というもの。

こうしたことが、事例研究を通じて考察されていくのだけど、その事例研究がまた手際がよくて(正直、よすぎるところもあるが)、とくに、得られたデータから可能な限りの発見事実を絞り出そうという気概とか、それを元に論考を着々と深めていくところなんかは、学生はぜひお手本として見習いましょう。あと「組織文化」という括りなので見落とされがちだけど、事例は社会化の事例でもあり、それも新入職員が組織に参入していくにあたりどのような戸惑いや問題に直面するかとか、それをどう解消したり隠蔽したりしているか(その際にどう文化が使われているか)とか、まあ当たり前と言えば当たり前なんだけど、社会化研究ではあまり言われてない大事なことをたくさん指摘してて、社会化研究でほとんど参照されていないのがとても残念だと思った。

で、最終的には組織文化のマネジメントということで、実践的インプリケーションを出すところまで議論が進むのだけど、どういうことを言うかというと、トップによる理念の浸透だけでなく、それ自体は理念を反映しているとは限らない(反映していないとも限らない)メンバーの日常の実践へと着目点を広げよう、というもので、著者自身も書いている通り、ごくごく抽象的な話で終わってしまう。まあ、ここを深掘りするのは難しいよなというか、 理論の解像度を上げるとこれまでは見えなかったものが見えておもしろい反面、実践的なインプリが簡潔に出しにくくなるし、自分自身が博士論文でこの問題と格闘したのもあって、どうも人ごととは思えない感じだった。

組織文化のマネジメント―行為の共有と分化

組織文化のマネジメント―行為の共有と分化

 

*1:メモ的に書いておくと、実際の分析枠組は、この(1)(2)の下にさらに二項対立が設定されており、「(1)観念としての文化:①普遍的な価値規範/②実践的な価値規範、(2)表面的・具体的なものとしての文化:①観念と結びついた人工物/②(観念と無関連な)単なる習慣」となっている。