読んだもの観たもの

I'm not a very good communicator, so maybe that's why I write about talking

『世界でいちばん虚無な場所 旅行に幻滅した人のためのガイドブック』

世界でいちばん虚無な場所 旅行に幻滅した人のためのガイドブック

世界でいちばん虚無な場所 旅行に幻滅した人のためのガイドブック

 

旅行というのはいざ行ってみれば楽しいものだが、行く前はいつも、できたら行かずに済ませられないものか、と思ってしまう。旅行中の計画を立てるのなどほとんど苦行で、がんばってよさそうなラーメン屋を探すぐらいが限界である(食事はホテルのレストランで、なんならコンビニで済ませてもいいぐらいに思っている)。それでも、行ってみれば楽しいし、だいたいどこに行ってもここに来れてよかったと思う。でも、いつも心のどこかでは早く家に帰りたいと思っている。

そんな有様なので、「旅行に幻滅した人のためのガイドブック」という副題がつけられ、さらに「反旅行書」と銘打たれたこの本を当然読んでみるわけである。

内容としては、「死の島」「破滅町」「残酷岬」「場所無し」といった世界各地にある悲しい地名について、それらがどのような経緯でつけられたのかをそれぞれ4〜5ページほどで簡潔に物語っていくのだが、

それぞれの地名の裏には物語が存在するが、本書に出てくる悲しい場所の場合、物語の裏には悲劇的な出来事がある。しかし、それらの出来事の記憶は色褪せ、廃道の錆びた道標のように名前だけが残り、遠い昔の残響をこだまさせていることが多い。本書でわたしは、こうした廃道をたどろうとした(p. 15)

という感じで、死者の記憶を辿る作業(https://tsk1024.hatenablog.com/entry/2019/09/09/135758)にも通じるようで、おもしろそうじゃないかと。しかも著者は、

これまでもそうだが、おそらくこれからも、わたしは本書に出てくる場所に行くことはないだろう(p. 16)
などと述べており、実に信頼のおける著者である。

で、読んでみたら、それぞれの地名のエピソードもおもしろかったが、その合間に挿入されている3編のエッセイ(内容は、チェット・ベイカーとか、ホテルとか、エドワード・ホッパーのガス・ステーションとか、憂鬱とか、ベンヤミンとか)の方がより虚無的で読み応えがあった。