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『シグルイ』

シグルイ 7 (秋田文庫 71-7)

シグルイ 7 (秋田文庫 71-7)

  • 作者:南條 範夫
  • 発売日: 2015/01/09
  • メディア: 文庫
 

シグルイ」というのは武士道の「死狂ひ」ということで、今風に言い直せば「死に物狂い」ということらしいのだが、今日「死に物狂い」などと言ってもまあ「必死だね」というくらいのニュアンスなわけで、いきおい「必死」なんて言っても「ふうん、がんばってるんだね」というくらいの感じ、そこで「必ず死んでしまう」などとは誰も想定していないわけだけど、そこはこの『シグルイ』という漫画、さすがに、圧倒的に、死に狂っているわけである。

舞台は駿河城御前試合、隻腕の剣士と盲目跛足の剣士が対決するところから始まるので、読者も最初はイロモノ興味で読んでいくわけなのだけど、どうやら両者の間にはいろいろ因縁があるらしく、話は時を遡り、両者の間にいったい何があったのかということが重く丁寧に描かれていくことになる。まあ武士モノということで、その間、大量の血が流れ、大量の臓物がこぼれだすわけなのだが、そうこうしているうちに、読者もこの両剣士の間の因縁というか、剣に生きるもの同士の一種不思議な関係性がわかってくるわけで、終盤で話が冒頭の御前試合に戻ってくる頃には、単なるイロモノ試合がいろんなものを背負った宿命の対決へと様相を変えるという仕掛け。でまあ、大きなテーマとしては当時の封建社会の恐ろしさというのがあって、そこで武士として個を殺して生きることと、こうした制度を否定すべく近代的主体として生きようとすることはどちらもまあまあ詰んでいるわけで、話は否応なく残酷になるわけです。