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I'm not a very good communicator, so maybe that's why I write about talking

『産業文明における人間問題』

人間関係論〜組織開発の学説史をもう一度整理しておこうというので、まずはメイヨーの1933年の作から。この本は大きくは三部構成になっていて、まずは産業(労働者)研究においては生理学のみならず心理学をはじめとする他のアプローチが必要ですよということ、次にホーソン実験について順を追って実験概要から結果の解釈まで色々、それを踏まえて近代社会についてメイヨーがあれこれ論考する、という感じ。

メイヨーがしきりに強調するのは、作業員の全体情況に注目せよ、ということで、 職場で人々が抱えている問題(とその原因)を個人化してはいけない、一見問題を抱えていると思われるその当人だけに注目するのではなく、その人を取り巻く集団内の人間関係や会社の方針、あとは、その人の私生活や過去の経歴にも目を向けるべきだ、という。で、後にいう「社会人モデル」というのは、産業・労働の場において、人間関係を統制する社会的規範の観点から把握されるべきものとしての(明文化された規則による統制というより、集団の暗黙的な了解による統制を受けるものとしての)「人間」が発見されたということであるらしい。だから、社会人モデルというと、教科書的には即座に他律的に過ぎるという批判が差し込まれて自己実現人モデルに展開するという流れになっているけれど、ふつうに考えて人は社会規範に従って生きているし(社会規範の統制を免れた自己というのは「狂人」以外の何者でもない)、その意味では自己実現人モデルのいう自律的人間というのもそれを可能とする社会規範の統制のもとでしか成り立ちようのないものであり(マズロー自己実現はいささか狂人的ニュアンスがあるにせよ)、まあこの辺、あまり自律/他律を文字通り真に受けちゃうと、メイヨーが退けようとした方法論的個人主義に還ってしまう(その後のTグループとか組織開発も、協働のプロセスに着目するということで、こうした社会統制の作用を意識化し、あるいはまたそれを利用することで変化を起こそうとしてるわけだしね)。

もうひとつ、面接調査についてメイヨーが論じていることだが、インタビュイーの発言から工場内の事実を正確に探ろうとするのは、すなわち、労働者の発言を真実と虚偽に分けようとするのは、まあ無意味なことだよ、と。インタビュイーの発言はあくまで、その人、および、その人を取り巻く人間関係をその人自身がどのように理解しているかを理解するためのものとして扱われなければならないのであって、メイヨーの関心も元より、人々が世界をどのように了解しているか、そのパースペクティブにあったとのこと。