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I'm not a very good communicator, so maybe that's why I write about talking

『ハンナ・アーレント』

ハンナ・アーレント(字幕版)

ハンナ・アーレント(字幕版)

  • 発売日: 2014/09/02
  • メディア: Prime Video
 

アイヒマンの件をメインに、家族や友人との私生活や若かりし頃のハイデガーとの関係の回想を交えた映画。「悪の凡庸さ」という議論をすでに知っているわれわれからすると、という話だが、ふつうに見るとわれわれは主人公のアーレントに肩入れして見るはずで、そうすると、作中でのハンス・ヨナスは、アイヒマンは極悪人でもなんでもなくごく平凡な人物であったというアーレントの議論(あと、一部のユダヤ人指導者もまたホロコーストに加担していたという議論)を頭ごなしに否定し続けて、ぱっと見、すごく石頭のおじさんに見える。私もうっかりそんなふうに見ていたのだけど、どうやら、ヨナスは単に頭が固いおじさんなのではなくて、アーレントの論理——アイヒマンを罰したところで、また次の「アイヒマン」が出てくるだけであり、問題は一向に解決しない。むしろ、それで問題解決の安心感を得るというような感情的処理こそが、巨悪を生み出す凡庸さ(思考の欠如)につながっている——を十分に理解した上で、しかし、今はまだそのようなことを言うべきではない、傷を負ったユダヤ人たちの感情の処理をまずは優先させるべきだ、ということだったらしい。