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I'm not a very good communicator, so maybe that's why I write about talking

『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』

他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 (NewsPicksパブリッシング)

他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 (NewsPicksパブリッシング)

  • 作者:宇田川 元一
  • 出版社/メーカー: NewsPicksパブリッシング
  • 発売日: 2019/10/04
  • メディア: 単行本
 

私たちが抱える問題には、決まったハウツーで解決できる問題と、ハウツーではどうにもならない問題があって、後者の問題、たとえば、組織内の対立とか分断の解消に取り組む際に、対話が必要となるだろう、という本。

ここでいう対話とは、「さあ、みんなで輪になって話し合いましょう」とかいうことではなく、他者との間に新たな関係性を作り出すことを指しており、それは、自分とは異なる「わかりあえない」他者を前にして、そこに横たわる深い溝にいかにして橋を架けていくか、という問題である。というわけで、ここで書かれているのは、嫌な相手ともそれなりに仲良くやるためのコミュニケーション術とかいう話ではもちろんない。新たな関係の創出とは、他者といる時の違和感や苛立ち、怒りや苦しさに立ち止まり、それらと時に痛みを伴いながらも共に向き合い、新たな可能性を探り出していくこと、というような作業で、それをどういうステップを踏んで実践していけばいいかが、事例も踏まえつつ具体的に書かれている。

とてもわかりやすく書かれているし、こうした問題は学生にとっても身近な問題だろう、ということで、来年のゼミの課題文献にしようかなと思っている。下の立場の人間が上の人間を「悪者」に仕立て上げる「弱い立場ゆえの正義のナラティヴ」とか、逆に、自分より下の立場の人の発言を、自分(上位者)に忖度したものであるとに気づかずに言葉通り受け取ってしまう「権力者のナラティヴ」とか、たぶん学生の生活世界のあちこちで見られることだろう。