読んだもの観たもの

I'm not a very good communicator, so maybe that's why I write about talking

『パプリカ』

パプリカ

パプリカ

  • 林原 めぐみ
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アニメにはあんまり詳しくないので、筒井康隆平沢進だというくらいの知識でネトフリのマイリストに長らく入れっぱなしだったのを、ついに見た。

あらすじとしては、

他人と夢を共有できる装置が研究所から盗まれた。研究所職員の敦子は事件解決のため他人の夢に入り込むが、やがて拡大する夢の世界が現実を侵食し始めて…。

というわけなので、

総天然色の青春グラフィクスや1億総プチブルを私が許さないことくらい、オセアニアじゃあ常識なんだよ! 

とか、

絢爛たる紙吹雪は鳥居をくぐり周波数を同じくするポストと冷蔵庫は先鋒を司れ!
賞味期限を気にする無類の輩は花電車をすすむ道にさながらシミとなってはばかることはない!
思い知るがいい! 三角定規たちの肝臓を!
さあ! この内なる祭典こそ小学3年生が決めた遥かなる望遠カメラ!
進め! 集まれ! 私こそがお代官様!

とかいう話になってくるわけで、これはもう私好みなわけである。

それで、面白かったので、原作も読んでしまった(もちろん、表紙がよい中公文庫のほう)。

『きさらぎ駅』

なにかあまり考えずにさくっと見れるものを、ということで。2ちゃんねるでおなじみの例の話なのであるが、こういう類の映像化作品はまあ酷いことになるだろうなと期待せずに見始めたところ、案の定ストーリーは改変されているし、まあそれはいいとしても、ボソボソとセリフが聞き取りづらくテレビの音量を上げて見ているところに突如デカい音を鳴らして見る者をビクつかせるという怠惰な手口が繰り返される不快な作品であった(ただのおっさんが話しかけてくるだけの特に意味のないシーンにそういう演出を入れるのは、とりわけ許すまじ)。でもまあ、主人公の女子学生が異世界へと突入する後半部――彼女はすでに異世界の攻略法をサトエリから聞いているので、満を持して、という感じで参入していくのだが――、彼女の攻略っぷりには笑ってしまった。ストーリー的には、最後にオチを2回うまくつけて終わる。だけど、そういうストーリーにしたぶん、サトエリのキャラが崩壊する羽目になってませんかね(あと、この話と関係ないのだが、「俺に指図すんじゃねえ」のあいつは一体、普段どうやって社会生活を送っているのか、気になる)。

『自己啓発の罠 AIに心を支配されないために』

去年に買って、ちょびちょび読んだり読まなかったりしていたものを、この機に読み通してみた。身体やふるまいのみならず、精神、魂のアップグレードを目指して私たちが日々行う自己啓発、それは単に、個々人が「よりよい私」の実現を目指してがんばるというだけの話ではない、より広範な問題含みの社会・文化・政治的現象である。自己啓発のテクノロジーと文化は、私たちを幸せにするどころか、ほとんど実現不能ともいえる目標(=理想の自己)を絶えずちらつかせることで、私たちの不安を煽り、私たちのストレスや自己嫌悪を増大させている。私たちは常に満たされない不足感を抱き続けるのだが、そうした「永遠に満足しない消費者」こそが、ウェルネスを売り物にする資本主義にとって、理想的な「獲物」なのである。もっとも、これは陰謀めいた話ではなくて、自己啓発に勤しむ私たち自身がこうした状況に積極的に加担しており、今や「私たちは死に向かって自己啓発している」のである。…という感じで、自己啓発というテクノ文化とその問題についてあれこれざっくり語るという感じの本なので、解決策もざっくりで、個人主義的自己に代わる関係的自己という観念を持ちましょう、そうすることで、ただ自分の内面に執着するのではなく、社会・文化・政治的な観点から私のあり方を捉えていきましょう、テクノロジー(AI)をそれ独立の中立的なものとして語るのではなく、社会・文化・政治とテクノロジーを不可分なものとして語る新たなナラティブを生み出していきましょう…といった感じの本。

あとは、自己啓発のルーツとして、古代ギリシャ哲学、キリスト教人文主義などがこれもざっくり触れられていて、また、要所要所では「デジタル人文主義」「ヒップスター実存主義」「ウェルネス資本主義」「テクノ解決主義」等々のポップな造語(?)が登場するという感じで、学術書というよりは読み物というところでしょう。それで読みやすいかといわれるとそこまで読みやすくもないのだが、まあ、学生さんにも薦められる本でしょう。

『君たちはどう生きるか』

宮崎駿がもう一度長編映画を作っていたなんて、ぜんぜん知らなかった。先週あたりにTwitterを開いてみれば新作が公開されたよとあって、ちょうど春学期もほぼ終わりで少々時間も取れるようになってきたタイミングだったので、映画館に行って見てきた。

今回は宣伝活動をしない方針らしいので、あまりネタばらしになるようなことを書くのはよくないかもしれないのだが、内容としてはまあ、初見ではほとんどの人の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶことだろう。それも、全体的にいつになく不気味さ、不快さが強調されているので、後ろの席に座ってた子供なんかは始終怯えながら見る羽目にもなっていた。まあそれでも、小難しいことは考えずとも、いつものジブリ的なアニメーション(特に今回は過去作からのセルフパロディがいくつもあった)と久石譲の(ひょっとすると最高傑作と言ってしまってもいいかもしれない)音楽だけで十分に「よかったね」という満足は得られる仕上がりにはなっている。

見た感想としては、宮崎駿が「宮崎駿(とスタジオジブリ)」を終わらせるということで、シン・エヴァっぽいメタフィクション的雰囲気があるなあというのがまずひとつ。あとは、「君たちはどう生きるか」という問いかけに関しては、この現代の流通システムのもとで普通に食べて暮らしている限りわれわれは、「生物」にナイフを突き刺してその肉や臓物を裂いたりする機会はあまりないわけで、そうした生の剥奪、解体作業を他者に代行してもらっていること、そしてそもそも誕生し生きるということが無数の死の上に成り立っているということを忘れ去っていたりするので、そのあたりが問われているのかなぁというのは、まあ自分の頭でもパッと見て思いつくところ。

で、他にも見ていて、おや?と引っかかったところはいくつかあったのだが、続きを見ているうちにすっかり意識から漏れてしまっていたところ、そのへんを見逃さずにきっちり考察できている人はすごいなぁということで、私が読んで面白かった考察がこちらの作家さんのもの。やっぱりあの継母は異例の色っぽさだったのだ。

『ミッドサマー』

ミッドサマー(字幕版)

ミッドサマー(字幕版)

  • フローレンス・ピュー
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それで、アマプラでミッドサマーも今さらながら見た。映画としてはきれいな映画にはなっているが、まあ、カルトムービーの類でしょう。でも、この舞台となっている村がカルトかというと、そのへんは意見が分かれそうな微妙な作りで、郷に入っては郷に従えを守らなかった主人公たちの方に落ち度があるとも言える(主人公グループのひとりを人類学を専攻する学生という設定にしておいて、下手なフィールドワークをやらせる描写があるのも、そういうことだろう)。でもまあ、主人公たちは明らかにはじめからターゲットにされていたわけだし、死生観もまったく違っていて、自分たちにも危険があるかもしれないことに薄々勘づき始めている、そんな状況ではもはや異文化理解とか言ってられないだろう、というのもある。話としては、家族を失った主人公が再び家族を取り戻すというお話で、見ようによってはバッドエンドにもハッピーエンドにもとれるという感じ。

『サイコ』

6月とか一体なんなんでしょうね,あれよあれよという間にもう下旬らしいですよ。そんな中で,久々に見た映画がこれ。これもまあ,昔に一度見て,ジャケ写にもなっている女優のホラーシーンの印象はあまりにも強く残っているのだけど,それ以外はきれいさっぱり忘れていたので,再度見てこんなストーリーだったのか,と。それで,例のシーンの前後で話がガラリと変わるのも,けっこう斬新だよなあ。

『ストレイト・ストーリー』

ストレイト・ストーリー リストア版 [Blu-ray]

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  • リチャード・ファーンズワース
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リンチの映画の中で,どうもこの映画だけはハートウォーミングな映画であるらしいということでいままで避けてきたのだけれど,いざ見てみるとやっぱりデヴィッド・リンチだった。およそハートウォーミングなお話のなかでは,老人が活躍するお話だったらまあまだ許せるかなというところではあるが,そこはリンチ,ジジイの奇妙なロードムービーという絶妙なところを突いてくる。「ストレイト氏の物語」,よい映画です。