経営学をやっておきながらイノベーション研究にはこれまであまり興味をそそられなかったのだが、それはイノベーション自体がどうこうというより、「イノベーション」という言葉があまりにも安易に使われ過ぎており、とにかく「イノベーション」とさえ言っておけば、それっぽい、何かいいことをしている感じが出るだろう、みたいなのにうんざりしていた。まあ、落ち着いて考えてみれば、イノベーションの研究者ならそうした風潮は百も承知のはずで、そこで本書、みんな「イノベーション、イノベーション」って簡単に言うけれど、イノベーションとは本来、人間のコントロールが及び得ないという意味で〈野生〉のものであって、その野生の習性をちゃんと知っておかないと、噛まれて痛い目に遭うよ、ということを議論する。
で、この本では、イノベーションの野生の習性を踏まえた上で、どうすればその野性味にできる限りの対処をしえるかということが論理的に考察される。それはいずれもすごく説得的で重要なのだが、野生という飼い慣らせないものをなんとか飼いならそうというのは論理的には矛盾であって(この点は本書でも「アニマル・スピリッツ」として少し触れられている)、この矛盾そのものに正面から対峙するような研究、論理的には説明できない意思決定に照準を絞るイノベーション研究もあり得るし、あれば面白いだろうなあという感想。