読んだもの観たもの

I'm not a very good communicator, so maybe that's why I write about talking

『占星術殺人事件』

ミステリの超有名作を読んでなかったので読んでみた。

「トリックありきで話を作っている」とよく批判されているみたいだけど、トリックが不発のミステリなどミステリの名に値しないわけで、そういう話の作り方はぜんぜん大歓迎だし、そこから生まれる不自然さ、とくに「こんな人間、現実にいるはずない」という人物造形は、むしろミステリの醍醐味、あるいはミステリ的な「自然さ」であるとすら思っている。

 ということで、本編もさることながら、あとがきが興味深かった。たとえば、

思い返してみれば、昭和三十年代の東京という街自体、あきらかに探偵小説の時代をすごしていた(527頁)

書くということに関しては、こんなメッセージも。

世の中のことがすっかり解るまで、書くことを待たなくてはならない理由なんて実はないのだ。いくつになっても解らないことはあるし、若い頃にはよく解っていて、次第に失われる世界や、知識もある。また物語は生き物で、それがもしも傑作なら、書くという行為自体が、解らない部分を教えてくれる(528頁)

占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫)