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I'm not a very good communicator, so maybe that's why I write about talking

『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』

同じ著者の『ダークウェブ・アンダーグラウンド』が面白かったので、こちらも読んでみた。

「自由と民主主義はもはや両立できない」と言ったピーター・ティール(ペイパル創業者)から、「宇宙人」(=超人間・超知性的存在)による専制(民主主義からの脱却)に究極の自由を夢見るカーティス・ヤーヴィンを経由して、本書のタイトルにもあるニック・ランドという人の〈暗黒啓蒙〉に辿り着くらしい。

なんか、こうまとめただけでもだいぶ厨二心をくすぐる感じだが、暗黒啓蒙というのは、理性の光によって世界を照らす近代の啓蒙主義enlightenment)のオルタナティヴであり、暗黒の光を照らす(dark enlightenment)という撞着語法的な思索・実践であるらしい。もうちょっと詳しくいうと、近代の啓蒙主義が、理性によって未知(他者)を既知(西洋的・自己的なるもの)の枠内に飼い慣らすことにユートピアを見出してきたとしたら、暗黒啓蒙は、そうしたわれわれの枠組みの〈外部〉という形容不可能な未知(それはおそらく〈恐怖〉であるとのこと)への遭遇にユートピアを見出す、というか、そうして現代というディストピアからの脱却を図るものらしい。まあ、認識を経由することなく〈外部〉=未知にアクセスしようということで、認識スキーマとかの議論に慣れたわれわれ(大学人)からすると相当矛盾を孕んだ議論になるわけだけど、事実、ニック・ランドなどは大学に勤めながら、アカデミズムの〈外部〉で積極的に活動してたらしい(ちなみに、この辺から、近代の認識論(カント)を乗り越え、いかに物自体=未知の他者に遭遇するかという思弁的実在論に繋がるらしい)。

ともあれ、テクノロジーの発展、シンギュラリティによって、近代の啓蒙主義とかヒューマニズムは消失し、そうした地点では主体とか人間とか人種とか性別は融解するということで、そんな話をされるとついエヴァンゲリオンの旧劇ラストシーンを思い浮かべてしまうが、暗黒啓蒙によれば現実とフィクションは分かち難く結びついており、幻視とか空想とか思弁とか欲望はいずれ現実を侵食し、それ自体が現実となる(ハイパースティション:自己を現実化するフィクション)、ということで、あながちエヴァ妄想も間違いではないらしい。

もう少し具体的な話をしておくと、暗黒啓蒙では国家なんかも近代的なものではなくなり、あたかも企業のように運営されるべきものとなるらしい。この辺はリバタリアニズムと通ずるところだが、つまり、個人が自由意思で国籍を選択でき、人は生涯でいくつもの国家をあたかも転職するかのように渡り歩く(したがって、国家間にも人員の獲得を巡って競争原理が働く)ということになるらしい。こうした、ヴォイス(発言:声を上げること)を基盤とする民主主義からのイグジット(退出:無言で脱出すること)、そして、イグジット(無言で退出できること)を基盤とした国家や政治を作ろう、というのは議論としては面白いけど、一体どこにそんな国家を作るの、というと、サイバースペース上に仮想の国家を設立し、そうしたフィクションはいずれ現実になるだろう、ということらしい。

あと、現代においてもはや未来は存在せず、未来は常に過去(あるいは過去のフィクション)へのノスタルジアの中から「失われた未来」「実現されなかった未来」という亡霊の形式で取り出してくるしかない、というようなディストピアンな議論なんかも、(本書でも論じられているが)新しいものが登場しなくなり、過去のリヴァイヴァルを繰り返すポップ・カルチャーを見渡せば、なんか実感として頷けるなあとか思った。

ちなみに、こうした亡霊性を伴った音楽として本書で挙げられているBurial、聴いてみたらすごくよかった。聴いたら、言わんとしていることがなんとなくわかると思う。 

Untrue [解説付 / ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (BRC322)

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