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I'm not a very good communicator, so maybe that's why I write about talking

『人本主義企業 変わる経営 変わらぬ原理』

戦後の日本企業を取り巻く状況とそこから生まれた制度(日本的経営)は、試行錯誤のうちに資本主義とは異なる「人本主義」とも呼べる企業システムを生み出してしまい、それは戦後日本の類稀なる成功の大きな理由となったし、この人本主義の企業システムは日本固有のものでなく普遍的な有効性があるのではないか、ということを論じる本。

で、人本主義というのは、ヒトを経済活動の本源(希少資源)とし、ヒトのつながりこそがカネを生み出す活動の基盤となるという考え方のことで、カネを経済活動の本源(希少資源)に据え、カネ(の提供者)をもとにして企業システムが作られるとする資本主義と対比される。もうちょっと詳しく言っておくと、株主主権ではなく従業員(経営者含む)主権、分散シェアリング(情報、企業が得た利益、意思決定権を特定の誰かに偏って配分するのではなく分散させる)、自由市場でなく組織的市場(少数の相手と長期的継続的に取引活動を行うというような、組織の原理が滲透した市場概念)の3つが人本主義の骨子であるらしい。それで、この人本主義はよく「人に優しい経営」というふうに勘違いされるのだけど、そういうものではなくて、人本主義のもとでは組織内部でも組織間でも(ひょっとすると資本主義以上に)苛烈な競争が起こりうるし、デメリットもたくさんある。けれど、最終的には、小さくまとまらずに大きく考えようというメッセージを送りつつ、人本主義に日本の未来を展望するという論調。

1987年ということで結構昔の議論なので、現在はどう議論できるだろうかということをなんとなく考えておくと、まあそれを人本主義と呼ぶかどうかは別にして「企業は人なり」みたいな考え方は今や誰もが当たり前に口にするようになっているし、その一方で、例えば「こころの資本」みたいな話が流行っていることをみると、資本主義はいよいよ来るとこまで来たなという感じでもある。この本でも人本主義を主として資本主義の原理を取り込むということが議論されているけど、むしろ資本主義が人本主義(と呼んでいいかわからないが)を取り込むということなのだろうし、その点は著者自身も、人本主義は資本主義の発展形だと言った上であえてそれを「人本主義」というラベルで切り出しているのだけど、人本主義というのはそうした著者の思惑を超えたかなり決定的な資本主義の形態であるのかもしれないなどと考えつつ。