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授業の準備のために見た『誰も知らない』

誰も知らない

誰も知らない

 

担当しているコミュニティマネジメント論という授業で、家族について一コマ話すことになっているのだけど、使っている教科書でこの『誰も知らない』が言及されていたので、有名な映画だし、Amazonプライム・ビデオで見れるし、ということで見た。

母親が子供4人を家に置き去りにして蒸発(恋人と同棲)するという実際にあった事件をモチーフとしていることが冒頭で言及されており、当然見る方としては、ネグレクトについて考えさせられたり、母親への道徳的な断罪がなされたりすることを期待して見ることになるのだが、映画の内容があんまりそういう風になっていなくて、わりと淡々と話が進んで、終わる。とくに母親に対する非難が一切描かれないところなんかは気になる人が結構いるらしくて、そういう人は随分この映画に対して憤っているみたいだけど、その点、授業で使っている教科書では、事件の責任を母親だけに押し付けるというより、「家族はこうあるべし」みたいな家族のあり方の多様性を認めない社会規範がこういう事件を生み出したとも言えるのではないか、みたいな、いかにも社会学らしいことが書かれていたと思う(今、本が手元にないので、間違っているかもしれないが)。この映画にそうした「社会学的視点」が馴染んでいるかというと、ちょっと厳しいかなと思わなくもないが、まあ授業では一応触れておこうと思う。

で、実際の事件を元にした映画ともなると、まあだいたいは以上のような議論になるわけだけど、そんなことより、どうもこの映画を見てると『リリイ・シュシュのすべて』とか『ヴァージン・スーサイズ』を思い出してしまう。どちらもたしか、大人の知らない子供たちの秘密の世界、それもやがて崩れ去ることが決定づけられているような世界を描いた青春映画だったと思う(見たのがはるか昔なので、ほとんど何も覚えていないが)。それでこの『誰も知らない』も、言われてみればまさにタイトル通りで、大人が不在の子供たちだけの世界を、彼らが置かれた陰惨な状況からすると奇妙にも思えるほど生き生きと描いている(しかも、この点が実際の事件ともっとも違う点であるらしい)。

ということで、たしかにこの映画については(物語の外部の)大人の道徳的な目線からいろいろ言いたくもなるけど、それよりももっと物語に内在的に、子供たちが生きようとした世界を見ようとする方がきっといいのだろうと思う。実際、警察や福祉施設に行けば彼らは「助かった」のだろうが(そして作中には、それを勧めた大人もいたのだが)、それは子供たち4人が生きる〈この世界〉が根こそぎ失われることにもなる。そういうわけで、いずれ崩壊することがわかっていながらも、大人たちの介入を拒絶するようにして子供たちが守ろうとした〈この世界〉を見つめてみることが、この映画の一番の楽しみ方かなあと思う(ついでに言っておくと、上述のように、子供たちが育児放棄されたことを知りながら多少なりとも関わりのあった大人もいたわけで、ここでいう「誰も知らない」には「知っているけど知らない振りをした」というような、そうした周囲の大人に対する批判的なニュアンスを読み取ることも可能だろう。まあ、とはいえ、がっつり救いの手を差し伸べてくるような善良な大人が登場したところで、当の子供たち自身が跳ねのけたはずで、現に彼らは、自分たちの世界を壊すことなく援助をしてくれる大人(つまり、秘密を守ってくれる人)だけを選んで関わっている。たぶんこういうところに注目するべきで、要するに、道徳的な視点から見てもいいのだけど、もっと子供内在的に見る方がよいと思う)。

総評としては、よかったのは評判通り、第一に柳楽優弥の演技、第二にゴンチチの音楽。

ちなみに授業で使っている教科書はこれ。

つながりをリノベーションする時代-〈買わない〉〈恋愛しない〉〈働けない〉若者たちの社会学

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