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I'm not a very good communicator, so maybe that's why I write about talking

『リリィ・シュシュのすべて』

リリイ・シュシュのすべて [DVD]

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確かこの映画を初めて見たのは19歳か20歳の時で、誰かに勧められて見たのだと思う。で、私は映画にリアリティとか爽快感とかを別に求めないタイプなので、一部の人がこの作品に抱くような苛立ちとか嫌悪感も別に抱くことはなかったのだが、まあ、さすがにイタい、という印象だったと思う。もちろん、10代というのは誰もがポエムの一つや二つは書き綴りたくなるものだし、自分もその例に漏れなかったのだが、それにしても、エーテルやら何やらはいくらなんでもちょっとイタいと思ったと思う。でもまあ、大まかな方向性としては割と好きな方だったし、音楽と映像は印象に残っていて、確か私がドビュッシーに入ったのは、この映画を通してだったんじゃないかな。まあそこでもさすがにリリィ・シュシュ(というかSalyu)はイタいよなあ、という感じだったと思う。

時は流れ、私も歳を取り、数年前に『スワロウテイル』をちょっと見た時に、岩井俊二というか小林武史つながりでリリィ・シュシュのアルバムも聴いて、結構ええやん、となっていたので、この『リリィ・シュシュのすべて』もまた見直したいなぁと思っていたのである。で、今改めて見直してみたのだが、まあ、中高生にありがちなとにかくテンションが高ければ面白いと思っているようなノリにうんざりしつつ(そういえば、これは19か20歳そこらの時にもそう思っていて、その頃はだいたい自分より年上の大人が出ている映画ばかりを見ていたのだった)、途中の沖縄のシーン長すぎやろとも思いつつも、自分も90年代終わりから2000年代にかけて思春期を過ごした身なので、あの頃ってこういう空気感だったなあというノスタルジーもあり、まあ、結果としては結構よかったのである。あの頃の空気感というのは、この映画で描かれているような凄惨な事件が実際に自分たちの周りで実際に起こっていたというわけでは全然なくて、むしろ大したことなど何も起こらない平凡な日常だからこそ、逃避行として日常の崩壊を妄想する感じ。まあラルク・アン・シエルとかをみんな聴いていたのもそういうことだと思うし、まだ中二病という言葉も世に広く出回る前で、言い訳せずとも思う存分妄想に耽っていられたその感じが、初めてこの映画を見た大学生の頃と相俟って、ずいぶんと懐かしい。

あとは鉄塔。鉄塔は、ものすごくよい。

なお、市原隼人がこの後ああいう風になるとは、誰も思わなかったに違いあるまい。