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I'm not a very good communicator, so maybe that's why I write about talking

『Tutankhamun』とか『The Spiritual』とか

Tutankhamun

Tutankhamun

  • アーティスト:Art Ensemble of Chicago
  • 出版社/メーカー: Black Lion
  • 発売日: 2005/10/03
  • メディア: CD
 
ザ・スピリチュアル

ザ・スピリチュアル

 

なんともいい加減に演奏しているようで、よく聞いたら実はぜんぜん隙がなかったりする。かといって、わざといい加減に聞こえるように計算してやってますというふうな感じでもなく、好き勝手やってたらとんでもないものができちゃった!という感じに聞こえる。そうかと思えば、いかにもなことをあざとくやってみたり、ふつうに隙だらけのダラけた演奏をやってるなぁという印象を抱くときもある。このアート・アンサンブル・オブ・シカゴというバンドは、なんというか、よくわからないのである。

まあ、彼らの演奏の持ち味というのは、諧謔と言おうか、センスのよいおふざけなのだけど、それがいかにも「私、遊び心満載なんです」と言わんばかりの気取った感じに聞こえないというのはすごいことだ。そうした余裕みたいなものは結局のところ、予定調和から生まれてくるに過ぎないのだ。そう、彼らの演奏には予定調和というものがない。お約束からはことごとく踏み外してしまうし、「とりあえずやっちゃったけど、マジでこの後どうする?」みたいなところがあって、だからダラけていても緊張が走る。そんな中で、最高の瞬間が訪れたり、訪れなかったりするわけである。

彼らの演奏を聞いていると、本物/偽物、土着/都市、真面目/不真面目、軽薄/重厚といった二分法の境界がいともやすやすと飛び越えられていくし、そんなもの別にどっちでも構わねえ、と言うような気迫も感じられる。というか、そうした境界を曖昧にしつつ、ここぞとばかりに極端なわかりやすいものをあざとく出してくる、そうするとさらにそれをぐちゃぐちゃにして上書きしていく、というのが、彼らの戦略で持ち味なのかもしれない。それは通時的にスリリングなものであるだろうし、だからこそ全体を眺めれば、まあ、よくわからんねということになるのだろう。

で、『ツタンカーメン』ということで、どうやらエジプトらしいのだけど、そう言われるとたしかにエジプトっぽい気もしてくるが、それが本当にエジプトかと言われるとそうでもない気がしてくる。『ザ・スピリチュアル』というのも、そう言うくらいだから何か霊的なものを指しているのだろうけど、ひたすらフラフラした演奏で、結局これも霊的かどうかはよくわからないのである。